腎臓教室 Vol.99

移植を考えている人へ
~何をいつから準備すればよいのでしょうか?~

慢性腎臓病(CKD)の末期には生命維持のために腎代替療法が必要です。腎代替療法には血液透析、腹膜透析、腎移植がありますが、腎移植は、透析をしなくても生活していくことができ、透析療法よりも生命予後が優れているといわれています。移植をしたいと思ったらどうしたらいいのか?今回はタンパク尿から腎移植まで、CKDの生涯医療サービスを実践していらっしゃる酒井謙先生に、腎移植について教えていただきました。

東邦大学医学部腎臓学講座教授 酒井 謙 先生

はじめに

 血液透析、腹膜透析、腎移植など腎代替療法のなかで、腎移植は透析療法よりも患者生命予後に優れ、維持透析療法を受けることなく生活の質が保持されます。しかし、提供者(ドナー)がいなければ移植は成り立ちません。慢性的なドナー不足、透析導入の高齢化により腎移植の画期的な増加はありませんが、それでも年間1700例の腎移植がおこわれており、元気に社会復帰していただくことは、医療として健全なことであります。厚労省も移植の推進に力を入れています。
 このような腎代替療法の選択はいつなされるべきでしょうか。早すぎる透析導入は患者の生活の質を下げ、透析療法にかかわる医療費を増加させます。また、遅すぎる透析導入は合併症の発症や重篤化がおこります。移植も同じです。拙速な移植は避けなければなりませんが、透析を経ないで移植をおこなう先行的腎移植も考慮の一つに入れるべきでしょう。 

1 腎代替療法のインフォームドコンセントと先行的腎移植

 腎代替療法の選択(血液透析・腹膜透析、腎移植)に関するインフォームドコンセントはおおむねGFR*1(糸球体濾過量)15~30ml/min/1.73m2になった時点でおこないます。GFRは腎機能の残存%を意味します。このGFRが上記15%を切ると、治療法を選択し、透析ないしは移植準備をせねばなりません。何も情報がなければ透析療法導入しか道がないわけですから、私たち腎臓専門医は必ず、先行的腎移植の話しをおこなわねばなりません。
 透析導入の話が主治医からでたときには、ぜひ先行的腎移植の話も聞いてみてください。ドナーになってくれる人がいる場合は、一度、移植施設に紹介してもらいましょう。ドナーカード(臓器提供意思カード)や透析療法選択、また透析を終末期にはおこなわない判断までを、事前に家族とともに考えておくべきでしょう。
 先行的腎移植*2はGFR15ml/min/1.73m2未満にておこなうことができます。このとき腎臓を提供してくれるドナーの存在、ドナーとレシピエント(患者)双方の協調意思および身体的条件が整う必要性があります。移植施設では,ドナー、レシピエント双方の術前検査をおこないます。ドナーは健康であることが必要で、その健康な方にメスを入れるのですから、慎重に全身精査をすすめねばなりません。そのため、紹介初診から移植までの期間は通常半年以上かかります。
 先行的腎移植を計画していても、なるべくいい全身状態で全身麻酔の移植術を受けることが重要で、そのためには数回~数十回の透析をしてから移植をするほうがよい場合もあります。その場合は血液透析のための内シャント作成や、腹膜透析のためのカテーテル挿入術などの準備が必要ですが、これらの手術は時として必要で、先行的腎移植といえども、透析療法皆無を目指すべきではありません。

*1:GFR15~30ml/min/1.73m2とは、血清クレアチニンで2~3mg/dlに相当します。この時期は自覚症状がないことが多く、腎代替療法について考える心の準備ができていないこともあります。患者さんの状況を診ながら少しずつ情報を提供していき、患者さんの悩みながらの決断を支えていくことがわれわれ医療者の仕事なのです。

*2:先行的腎移植の場合、申請可能なタイミングで身体障害者手帳を申請し、移植手術が決定したら、自立支援医療の申請をおこないます。

2. 既に透析をしておられる方の、生体腎移植と献腎移植に関して

腎移植希望者(レシピエント)適応基準は下記のごとくです。

1.末期腎不全患者であること

2.全身感染症がないこと

3.活動性肝炎がないこと

4.悪性腫瘍がないこと

 多くの生体腎移植が65歳以下でおこなわれている現状と、献腎移植(亡くなった方からの善意の臓器提供)の待機期間(13~15年)があり、希望される場合は生体腎移植であっても、献腎移植であっても、移植施設への早期受診をお勧めします。
 最近の生体腎移植は血液型不適合移植が30%と血液型が違っても可能です。夫婦間移植が30%、小児を含む先行的腎移植が30%です。高齢者の腎移植も増えていますが、高齢ゆえに悪性腫瘍スクリーニングが大切です。もし悪性腫瘍にかかったことがある場合は、腎癌・膀胱癌・その他子宮体部・精巣・甲状腺・直腸・前立腺癌および悪性リンパ腫で、少なくとも2年再発がないことが重要です。子宮頸部癌、乳がんは少なくとも5年再発がないことが必須です。これは移植手術後に必ず服用しなければならない免疫抑制薬によって、悪性腫瘍の発生の可能性が高まるからです。移植後は拒絶反応が起こらないよう、かつ悪性腫瘍の発症を食い止め、早期発見をしていけるように定期受診精査が必要になります。
 献腎移植に関しては、(公社)日本臓器移植ネットワークへの登録(新規登録料3万円と更新料5千円)と別途HLA検査料金が必要です。これも移植施設にて、患者さんの状態(感染症、悪性腫瘍、心血管系評価)を診察して、登録業務をおこなっています。
 その他生体腎移植の場合の概算費用を下記に記します。移植医療は、初年度は費用がかかりますが、2年度以降は免疫抑制剤の費用のみですので、透析療法の10%の費用で済みます。
  1. 初診料 再診料
  2. 各種検査費:HLA(タイピング+クロスマッチ):自費であり施設によって異なる。他各種検査費用:施設によって請求方法が異なる。
  3. 移植後1年間の総医療費:(手術、入院、退院後の投薬・検査など)で約600万円程度
  4. 腎移植のための入院費も実際は自立支援医療(更生医療)補助が受けられ、自己負担額は数万円で済む(差額ベッド代などは別途)。生体腎ドナー費用は、原則自費診療だが、レシピエント更生医療から、返済(移植後)。

*移植費用監修:東邦大学医療センター大森病院 移植コーディネーター 関 真奈美

おわりに

 血液透析と腹膜透析はすべての末期腎不全患者が受けられる腎部分的代替療法であり、腎移植は一部の患者にのみ提供されます。他者への依存、善意の提供がなければ成立しない医療です。いただいた臓器に感謝して自己管理をおこなうことがとても大切です。

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