腎臓教室 Vol.78
腎硬化症
生活習慣病や高齢化を反映して、腎硬化症が増加しています。
どんな病気で、何に気をつけたらよいか、解説していただきました。
日本大学医学部附属板橋病院腎臓高血圧内分泌内科 岡田 一義 先生
腎硬化症とは
高血圧が持続することにより、全身の血管に動脈硬化が起こります。腎臓内の血管にも動脈硬化が起こり、特に細い血管ではその部位が狭くなり、血液が流れにくくなります。極端に狭くなってしまい、血液が流れなくなると、その先の組織が硬くなり、機能を果たせなくなってしまいます。一部の組織が硬くなるだけでしたら腎機能は正常ですが、両側腎臓の広範囲な組織が硬くなって萎縮してしまうと腎機能が低下してしまいます。この状態を腎硬化症といいます。原因
高血圧だけではなく、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症、高リン血症、高カルシウム血症、ストレス、加齢、喫煙、肥満、運動不足などの動脈硬化を進行させる要因すべてが、腎硬化症を悪化させることになります。よって、これらを適正なレベルにコントロールするとともに、禁煙し、運動療法や食事療法により肥満を解消することが重要です。慢性透析患者数の現状
腎硬化症が進行して末期腎臓病(=尿毒症)の状態になると、腎代替療法(腎移植、血液透析、腹膜透析)が必要になります。透析患者さんの3大主要原疾患は、糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎、腎硬化症です(下図)。2013年末で約30万6千人(平均年齢67.2歳:糖尿病性腎症67.1歳、慢性糸球体腎炎66.2 歳、腎硬化症73.8歳)が透析療法を受けており、年間約3万6千人が透析療法を開始しています。
生活習慣病と高齢化の問題を反映して、糖尿病性腎症と腎硬化症は透析を開始する原疾患で増加しています。糖尿病性腎症の占める割合は最も高いですが、ここで注意しなければならない点は、原疾患を1つのみ記載するため、糖尿病性腎症の多くの患者さんは腎硬化症も合併していると考えられ、腎硬化症の割合は、実際にはかなり高いということです。
日本透析医学会統計調査委員会資料より引用
診断
腎硬化症に特徴的な症状はありません。高血圧がどのように経過してきたか、高血圧による臓器障害(高血圧眼底、左室肥大など)があるか、腎臓の萎縮があるかなどで、腎硬化症が疑われます。尿と血液の検査や腎生検をおこなった結果、腎臓病を発症させる他の疾患すべてが否定された場合、腎硬化症と診断されます。加齢により徐々に進行することが多く、診断には年齢も参考になります。また、重度の高血圧により急速に腎機能が悪化するものを悪性腎硬化症といって区別します。治療目標
末期腎臓病への進行を抑制して腎代替療法を回避することです。また、腎硬化症に合併しやすく、生活および生命の質(QOL)に影響を与える心血管病(狭心症、心筋梗塞、頸動脈狭窄、慢性閉塞性動脈硬化症、脳梗塞など)を早期に発見し早期に治療することです。治療目標を達成するために
1 高血圧からの腎硬化症の発症予防
適切な食事療法(6g/日未満の塩分制限)や薬物療法などにより、降圧目標値を達成します。腎硬化症では早朝に血圧が高くなることが多いので、診察室血圧だけではなく、家庭血圧を早朝と睡眠前に測定することが重要です。
参照:●そらまめ通信 Vol.71(2013年10月号)
腎臓教室「高血圧と血管合併症」
2 末期腎臓病への進行を抑制
- 腎硬化症の早期発見による早期治療
適切な指導や治療で降圧目標値を達成していても、加齢により無症状で腎硬化症が発症しますので、早期発見も重要です。早期発見には、尿アルブミン定量、尿蛋白定量、年齢・性別・血清クレアチニンから求める推算糸球体濾過量(eGFR)が有用ですが、日本では糖尿病性腎症でないと尿アルブミン測定が保険で認められていません。 - 腎硬化症の進行抑制
腎機能と蛋白尿の程度および年齢によって、降圧薬の種類や降圧目標値が異なりますが、一般的には130/80mmHg未満を目指します。腎硬化症には、いろいろな合併症を持った高齢者が多いので、高齢者個々に適した降圧療法をおこないます。
腎機能に応じた運動療法と食事療法をおこない、高血圧以外の動脈硬化を進行させる要因の治療をおこなうとともに、腎機能を悪化させやすい鎮痛薬や造影剤などの使用はなるべく避けましょう。
参照:●そらまめ通信 Vol.74(2014年4月号)
腎臓教室「運動のすすめ」
●そらまめ通信 Vol.76(2014年8月号)
腎臓教室「CKDと治療用食品」