腎臓教室 Vol.57

CKD対策の必要性とその難しさ ―日米のCKD 対策の実情から ―

我が国でも厚生労働省が本腰を入れて透析導入者を減らそうと活動を始めましたが、一般にはまだまだ透析前のCKD(慢性腎臓病)への関心は低いのが実状です。日本の2 倍の人口を有するアメリカではCKD対策に早くから取り組んでいたものの、実効はいま一つと聞いていました。はたして実態はどうなのか、世界腎臓デーに来日されたミネソタ大学教授のアラン・コリンズ先生のご講演からアメリカの現情を知り、両国のCKD対策を考察してみました。

CKDの発見は遅れがち

 透析人口は日本がダントツに多く、人口100万人あたり2100人以上、その上をいくのが台湾で2000年に入ってから日本以上に透析導入患者が増え、今や100万人あたり2300人もいます。アメリカは第3位で100万人あたり1700 人台と、第4位以下の国々を大きく引き離しています。
 日本では5年前から厚生労働省戦略研究FROM-Jという、地域におけるCKD患者に対して、腎臓専門医とかかりつけ医との“病診連携” の推進のための事業がつくば市で始まり、この成果をみて全国的に広めていこうとしています。しかし、高額な透析医療費を問題視しながらも、まだまだ世間の腎臓病に対する関心は低く、糖尿病や高血圧の患者の主治医も腎臓専門医に紹介するのが遅れたり、患者自身も透析直前になって初めて腎臓専門医を訪れることが多いようです。
 ステージ3や4になる前に腎臓専門医を受診し、主治医と腎臓専門医がデータを共有して患者を診ていくという“病診連携” を進めることで、透析導入を遅らせることが可能になるだけでなく、心筋梗塞や脳血管障害で命を落とすCKD患者を減らすこともできるのです。これと並行してNPO腎臓病早期発見機構では、腎臓病になる可能性の高い人たちを継続的に検査し、フォローしていくという取り組みを始めています。

アメリカでも透析費用が増加している

 このように日本ではCKD対策はまだ始まったばかりですが、アメリカでは1990年代からすでに取り組みを始めているということでした。「ヘルシーピープル2020」と題して1990年から2020年までにCKDを増やさない、透析患者を増やさないを目標に掲げてCKD対策に取り組んできています。しかし、その実績はなかなか上がっていないようです。  一方、アメリカ全体の医療費に占める透析の費用は増えつづけ、それを抑制する必要に迫られており、メディケア(高齢者と障害者のための国が運営するアメリカの医療保険)におけるCKD、心不全、糖尿病、末期腎不全の患者数と医療費の分布がそれを如実に物語っています。アメリカの高齢者メディケアに占める腎臓病患者数とその医療費の割合は高く、メディケア予算の31%を占めるまでになっています。

腎臓病は高額医療

 CKD患者集団は糖尿病や血管疾患患者集団と相互に関連して、もっとも費用のかかる患者集団であると位置付けられています。にもかかわらず、透析に移行する2年前の時点で、医療提供者の半数が「患者が腎臓病とは知らなかった」というデータもあります。  糖尿病から透析に移行することはかなり知られるようになり、アメリカでは糖尿病患者の腎臓病のスクリーニング(腎臓病の有無を調べること)は年に35%と増加してきています。アメリカに限らず日本でも世界でも、糖尿病からの透析導入を減らすことが求められています。一方、高血圧の患者ではアメリカでも20人に1人しか腎臓病のスクリーニングを行っていないということでした。  末期腎不全になって透析導入となれば高額の医療費がかかるだけでなく、患者のQOL(生活の質)や予後にも影響を与えますので、慢性疾患の中でもとくにCKDについてはもっともっと関心を払うべきなのです。腎臓専門医と主治医とが密接に連携を取り合って、少しでも透析導入者を減らす努力がなされなければなりません。

患者のQOL 向上のためにも早期発見・早期治療を!

 世界中で末期腎不全患者が増えつづけている現在、医療費がかかるという問題だけではなく、CKDを早く見つけステージ2、ステージ3でとどめることができれば、透析に至らずに人生を全うすることも可能なわけです。CKD患者のQOLの向上のためにも、世界的な早期発見・早期治療のシステム作りが急務と言わざるを得ないのではないでしょうか。

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