腎臓教室 Vol.53

腎不全の治療法の選択
知っておこう 3つの治療法

医療法人仁友会 北彩都病院 副院長 石田真理先生

 6月に行われた日本透析医学会で、腹膜透析の良いところと悪いところについて議論を交わすセッションがありました。その際、「高齢者だから腹膜透析はできないと医療者が決めつけてはいけない。患者さんにはすべての選択肢を説明するべき」と熱く語っておられた北彩都病院(北海道旭川市)の副院長・石田真理先生に、透析・治療法の選択肢についての基本的なお話をご執筆いただきました。

知っていますか? 治療法

 「腎臓が悪くなっています。透析が必要です」。そう主治医の先生から言われたら、誰でも頭が真っ白になってびっくりします。どうしていいのか、自分はどうなるのか、これからの生活はどうなるのか、いろいろなことが心配になることでしょう。
 もう何年も腎臓で通院していたにもかかわらず、「いつかは透析になるよ」と言われていても、いざそう言われるとパニックになる人がほとんどです。「とうとう、透析と言われてしまった」とがっかりする患者さんをたくさん見ました。そんなときに、腹膜透析と血液透析の違いについて説明されても、言葉が頭のなかを右から左へ素通りしてしまうのは当たり前かもしれません。

腎不全の治療は3つあります

 腹膜透析、血液透析、腎移植、この3つが現在の腎不全の治療法です。それぞれに特徴と利点・欠点がありますが、どれか1つを選ぶということではなく、その患者さんの身体や家庭の状況により、うまくこの3つを使い分けることができるといいのです。
 たとえば、血液透析を選んでも、通院に時間をかけられない状況になったときは、腹膜透析をしばらくやってもいいでしょうし、腹膜透析から始めたとしても、むくみがうまく引かなくなってきたら血液透析を併用するのもいいでしょう。腎移植の希望があれば、登録をきちんと行っておけば移植のチャンスがあるかもしれません。

治療法の知識をきちんと持ちましょう

 問題は自分の病気の治療法についてあまり知らないまま、透析に入ってしまう方が多いということです。全国の透析をされている患者さんに行ったアンケート調査の結果では、24.8%の患者さんは透析導入時に透析方法を選択する機会を与えられなかったということです。
 また残りの75.2%の患者さんについても、腹膜透析と血液透析を平等に説明されたと答えた患者さんは、21.8%しかいませんでした。この結果の解釈にはいろいろあるでしょうが、少なくとも、自分の病気の治療法について十分に知らないまま透析に入る人が多いということはいえるでしょう。

腎臓病教室とナースによる療法選択外来

 そこで当院では、腎臓病のごく早期から腎不全の治療について勉強していただく「腎臓病教室」を聞き、早期に情報を提供しています。また、いよいよ透析導入が近くなると、医師からの説明だけではなく、ナースが患者さんとそのご家族にじっくり時聞をかけて3つの治療法をご説明する「療法選択外来」を行っています。そのほか、療法選択と腎不全の勉強目的の短期入院もあります。
 いずれにしても、医師の外来だけでは短い時間しかかけられないところを、栄養士、看護師、ソーシャルワーカ一、薬剤師といった多職種がかかわり、いろいろな情報提供とご説明を早期に行っていくことが重要と考えています。さらに腎臓病の方々だけでなく、地域の住民の皆さまに広く腎臓病とその治療法についての「市民講演会」を開催して、多くの一般の方々に知識を持っていただく活動を行っています。
 とくに当院では、80歳、90歳といった高齢の方には、身体にやさしい腹膜透析をお勧めしています。高齢だからとあきらめないで、腹膜透析という在宅で過ごせる治療法もあることを知ってほしいと思います。

治療法は進歩します

 腹膜透析、血液透析、腎移植、あなたのライフスタイルにあった治療法をより多くの選択肢から選べるほうがいいに違いありません。最近では、在宅血液透析といって、自宅で血液透析を行うこともできるようになりました。移植の技術も正着率もどんどん進歩しています。腹膜透析もAPDという自動腹膜還流装置が普及し、これにより寝ている間に治療を終えることもできるようになりました。
 このように、治療法も進歩しています。ぜひ、自分の病気や治療法について学ぶ機会を持ってください。きっとあなたの治療の助けになる情報や知識がたくさんあるはずです。

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