腎臓教室 Vol.50

尿検査からわかること

長崎大学病院 第二内科 腎臓内科部門 准教授 古巣 朗 先生

尿検査すなわち“検尿”からどんなことがわかるのでしょうか。尿検査で調べる項目としては、タンパク尿と血尿、そして尿糖があります。これらはそれぞれ腎炎、腎臓尿路系の癌および糖尿病などをスクリーニングするのに用いられています。さらに最近になり、タンパク尿が心臓や全身の血管の動脈硬化と密接な関係があることがわかってきました。今回の「じんぞう教室」では、タンパク尿と血尿を中心にお話を進めていきます。

タンパク尿

■腎臓の役割について

 腎臓のもっとも大事な役割とは、体の中のすべての細胞がよりよい環境で生活できるように、ひとつひとつの細胞の生活環境を一定に保つことです。そのために腎臓は、全身の血液の中の老廃物と余分な水分・塩分を尿の中に排泄しています。
 この大きな仕事を腎臓が遂行するためには、たくさんの血液が必要です。心臓からは1分間に約5リットルの血液が大動脈に送り出されますが、体重のたった0.5%の重さしかない腎臓に、5リットルのうちの約1リットルもの血液が流れています。血液は心臓→大動脈→腎臓の動脈→腎臓のろ過装置(糸球体)へと流れていきます。

■タンパク尿が出る理由と症状

 腎臓のろ過装置(糸球体)で血液がろ過され、老廃物が取り除かれます。一方でタンパクのように体に必要な物質は、糸球体ではろ過されずに血液中に残ります。もし糸球体に炎症(腎炎)や動脈硬化などによるダメージがあると、血液中のタンパクが尿中に漏れてしまいます。これが検尿をするとタンパク尿と判定されるのです。正常では1日のタンパク尿量は0.15グラム未満です。
 タンパク尿が出ていても、ほとんどの患者さんは症状がなく、診察しても異常はみられません。しかしながらタンパク尿が多くなってくると、足や下腿および顔の腫れがみられます。

タンパク尿の種類
○病的ではないタンパク尿・・・・・・発熱や運動などによる一過性のタンパク尿や、10代でみられる体位性タンパク尿(立ったり歩いたりしているときのみ、みられるタンパク尿)

○持続性のタンパク尿・・・・・・背景に腎臓病や全身性の病気がある。
  1. 心臓病や動脈硬化(高血圧症、糖尿病、肥満など)
  2. 腎臓病(腎炎、糖尿病など)

■タンパク尿の治療について

  1. タンパク尿が持続していて2+以上のとき、あるいはタンパク尿量が1日0.5クラム以上のとき
  2. 血尿もみられるとき
  3. 血液検査で腎臓の働き(糸球体ろ過量)を調べ、悪くなっているとき
①~③のいずれかの場合は、必ず腎臓の専門医を受診してください。タンパク尿は“サイレントキラー”です。無症状でも放置は禁物です。タンパク尿が陽性だと、心臓病(狭心症、心筋梗塞)や脳卒中(脳梗塞、脳出血)にかかる危険性が少なくとも3~4倍に増えることが報告されています。
 治療については、タンパク尿の原因となっている病気に対する治療になります。腎炎の場合は炎症を抑える治療が行われ、高血圧や糖尿病の場合は薬剤療法と生活習慣の改善が必要です。

血尿

■血尿の診断

 尿の中に赤血球が認められることを血尿と呼びます。血尿には肉眼的血尿と顕微鏡的血尿の2種類があります。前者は肉眼で見て明らかに尿の色が異常(ピンク、赤、赤褐色あるいは紅茶色など)な場合です。この際はただちに腎臓内科あるいは泌尿器科を受診してください。一方後者は顕微鏡で尿を調べて、ひとつの視野に赤血球が5個以上認められる場合です。

■血尿の原因の検査

 血尿の原因はどのように調べるのでしょうか。まず、赤血球に変形があるかないかを顕微鏡で調べます。変形がなければ、腎尿路の感染・結石・腫瘍が疑われます。変形がある場合は、腎炎の存在が疑われます。
  1. 赤血球に変形がない場合・・・・・・泌尿器科にて腹部の単純CT、尿の細胞診を行い、膀胱癌の危険因子がある場合は膀胱鏡を行うこともあります。
  2. 赤血球に変形がある場合・・・・・・赤血球円柱、顆粒円柱やタンパク尿を伴っている、あるいは血検査で血清クレアチニンや糸球体ろ過量など腎臓の働きの目安が悪くなっているときは腎炎が強く疑われますので、腎臓内科医を受診してください。

血尿の原因

  • 腎尿路の感染:膀胱炎、腎孟腎炎
  • 腎尿路の結石:腎結石、尿管結石
  • 腎尿路の腫疾(通常50歳以上):膀胱癌、尿管癌、腎癌
  • 腎炎:lgA腎症、ANCA関連腎炎、急性糸球体腎炎など

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