腎臓教室 Vol.48
透析患者における新型インフルエンザの注意点
日本医科大学 腎臓内科 教授 飯野 靖彦先生はじめに
冬に向かって新型インフルエンザが猛威をふるい始めました。厚生労働省の発表では現在多くの新型インフルエンザ感染が確認されています。その4分の1は慢性呼吸器感染や慢性腎不全などの基礎疾患をもつ人たちです。SARSのときも血液透析患者さんが犠牲になったことはまだ記憶に新しいところです。新型インフルエンザも同様に腎不全などの免疫力が低下減少している患者さんや小児・高齢者・妊婦さんがかかりやすく、また重症化して死亡する確率も高くなっています。したがって、血液透析患者さんや腹膜透析患者さんはとくに注意する必要があるため、新型インフルエンザのワクチン接種の最優先患者になっているのです。透析の担当医師と相談の上、接種の機会があれば積極的に接種を受けてください。
1 新型インフルエンザとは
それでは新型インフルエンザと通常の季節性インフルエンザの違いは何なのでしょう。季節性インフルエンザは毎年人に感染をおこし、ある人たちにはすでに感染を防御する免疫ができています。したがって、感染性は新型インフルエンザに比べるとそれほど高くはないのです。それでは豚インフルエンザや鳥インフルエンザと、新型インフルエンザの違いは何なのでしょうか。豚インフルエンザや鳥インフルエンザは豚や鳥から人にも感染しますが、感染した人から他の人には感染しにくいのです。ところが、鳥や豚インフルエンザウイルスが変化した新型インフルエンザはウイルス遺伝子が変異を起こし、まだ人には感染したことのないウイルスなので人から人への感染が容易に起こってしまいます。今回は豚インフルエンザで、重症になる人はさほど多くありませんが、鳥インフルエンザが蔓延したら大変なことになります。
■透析患者さんがかかりやすい理由
血液透析患者さんは週3回透析施設に行き、透析治療を受けなければなりません。そのため感染した人と接触する機会も高くなります。また、体の抵抗力・免疫力も落ちています。したがって、新型インフルエンザにかかりやすいのです。2 新型インフルエンザ感染の予防
まず、新型インフルエンザはウイルス感染ですから、感染しないように予防することが重要です。新型インフルエンザが流行しているところに近づかないことはもちろんですが、人ごみは避けてください。そして手洗いの励行。うがいをする。体力をつけるために栄養や睡眠をとることも大切です。3 新型インフルエンザにかかったなと思ったら
新型インフルエンザにかかった可能性が考えられるとき、自宅で体調が悪く高熱が出たときは、すぐかかりつけの透析施設に電話をして指示を受けてください。また、熟がなくても風邪症状を感じたら、透析前に診察を受けてください。もし透析中に風邪気味と気づいたときは、すぐ看護師等に申し出てください。とくに咳が出ているときは、咳エチケットも心がけてください。咳をするときは必ず口と鼻を手で抑えること。咳やくしゃみをしたあとは必ずその手を洗うこと。咳の出ているときは、人にうつさないためにサージカルマスクをつけるようにしましょう。
4 新型インフルエンザにかかってしまったら
新型インフルエンザにかかってしまったら、担当医と相談し早期にタミフルやリレンザを服用します。日本では感染後タミフルを早期に服用することで軽い症状で回復する人が多くなっています。自宅では安静を保ち、保温に努めましょう。また、うがい・手洗いの励行。マスクを着用すること。また、家族にうつさないように、なるべく隔離するとよいでしょう。部屋が狭い場合には、なるべく距離を離す(2m程度)ことで感染を防ぐようにしたいものです。5 透析施設での対処法
透析室では他の患者さんへの感染を防ぐために、新型インフルエンザにかかった患者さんが出たときは、できれば個室での透析が望まれます。しかし日本の現状では無理な場合が多いので、せめて隣りのベッドとなるべく距離をとり、衝立を立てる等して空間的な隔離をとることと、透析開始時間をずらしたり、退出する時間を変える等の工夫をして、新型インフルエンザにかかった患者さんと他の患者さんの間に、時間的な距離をとること。こうして感染の拡大を防ぐとともに、新型インフルエンザにかかってしまった患者さんの透析は、体調が悪いときほど、いつも通りしっかりと行うことが大切です。まとめ
新型インフルエンザは上手に対処すれば怖いものではありません。でも侮ってはいけませんので、絶えず情報を得て、パニックに陥らず、透析担当医師の指示に従って行動することが重要です。今回は、透析患者さんに対しての新型インフルエンザの注意点を書きましたが、慢性腎不全(CKD)の人も保存期の人も、透析患者さんに準じて、何とかワクチンの接種を受けるようにすると同時に、新型インフルエンザにかからないように日常生活にくれぐれも気をつけてください。