腎臓教室 Vol.47
日本の腎移植事情
日本移植学会 理事・広報委員長東邦大学医学部腎臓学教室 教授 相川 厚先生
長年、数多くの腎移植を手がけてこられた相川 厚先生に、日本の臓器移植、腎移植につ いて解説していただきました。先生は今回の「一病息災」に登場してくださった松原のぶえ さんの主治医でもいらっしゃいます。
夫婦間の生体腎移植が増えてきた
2008年の日本の腎移植症例数は、献(死体)腎が210例(脳死26 例、心停止184 例)、生体腎が991 例で、生体腎のほうが圧倒的に多いのが特徴です。生体腎の提供者(ドナー)は両親から、とくに母親がもっとも多いのですが、最近は夫婦間が多くなってきています。20年ほど前は、夫婦間ではHLA(ヒト白血球抗原;遺伝子、DNA)が異なるため、親兄弟よりも成績が悪いと信じられていました。しかし統計をとってみると生体腎移植では、双子のようにHLAが全く同じ場合は抜群に成績が良いのですが、あとは半分合っても、全部合わなくても、成績は変わらないことがわかりました。2007年の日本全体の生体腎移植1031 例中、夫婦間で腎移植をされたのは360 例で、34.9% にあたります。
韓国では家族間で血液型不適合(A 型のドナーからB型のレシピエントなど輸血できない組み合わせ)やHLAの抗体があって腎移植ができない場合は、違う家族と組み合わせて移植をするドナースワップという方法を行っていましたが、最近3 年間米国では、このシステムを導入し発展してきました。「私の腎臓をあなたの息子にあげるから、あなたの腎臓を私の娘にあげてください。」これをコーディネーターが調整して、同日に移植する方法です。日本では家族間の絆が強く、血液型不適合腎移植も適合移植と同じに抜群に成績が良いため(2001 年以降5 年生着率90%)、あまりこの必要性はありません。
日本は、脳死での臓器提供が極端に少ない国
2008 年の統計では、スペインは人口100 万人あたり34.2人の患者さんが脳死から臓器提供をしています。米国は24 人、日本は0.1 人でした。08 年、日本は脳死で臓器提供をされた患者さんはたったの13 人で、アジアいや世界でも最低です。脳死下臓器提供が世界でもっとも多いスペインではドナーアクションプログラムが実践され、主要な救急病院に臓器提供専門のコーディネーター(国家公務員の医師)を2 人置いています。このコーディネーターは脳死になった患者さんからの臓器提供をもれなく、つつがなく行います。コーディネーターは特別な講習を年4 ~ 6 回も受け、とくにドナー家族へのケア(家族の突然死による悲嘆の軽減とケア)を年間15 時間もかけて修得しています。日本の献腎移植の発展は、このようなコーディネーターを育てられるかどうかにかかっています。
12年ぶりに臓器移植法が改正された
日本の臓器移植法は、今年の7 月に衆議院、参議院で可決され改正されました。今までの法律では「脳死は人の死」であるのは臓器提供のときだけで、臓器提供意思カード(ドナーカード)を救急の現場で持っていなければ、家族が「本人が提供したいと言っていた。」と発言しても(心臓死での提供はできましたが)、脳死下では臓器提供ができませんでした。このような法律は世界中で日本だけで、世界保健機関の指針を日本だけが守っていませんでした。これからはドナーカードがなくても、家族が本人の気持ちを代わりに表現すれば、脳死下の臓器提供ができるようになりました。現在日本臓器移植ネットワークに登録している透析患者さんの献腎移植の待機期間は、なんと平均14年なのです。腎移植を受けたくても14年とは途方もない長い期間で、なんとか5年ぐらいで腎移植が受けられるようにするべきだと思います。
病腎移植について、テレビでは「なぜいけないのか。」という報道が多いですね。移植はドナーがいるから成り立つ医療です。腎臓の病気で来た患者さんに十分な承諾も得ずに、残せばいい腎臓を全部とってしまい、知らない人に移植してしまうことがいいことなのでしょうか?腎臓をとられたのはドナーではなく、治療を希望してきた患者さんなのです。移植を発展させるのなら、ドナーやそのご家族を大切にすることが一番大事なことだと思います。