腎臓教室 Vol.46
残存腎機能を残すことで、より長く透析生活を維持できる!
社会保険 小倉記念病院 腎臓内科篠崎 倫哉先生
6月5日~7日に開催された第54回日本透析医学会・学術集会に参加しました。その中で、非常に印象に残った講演があり、読者のみなさんにもこのような考え方もあることをお伝えしたいと思い、演者の先生に講演の主旨についてご執筆いただきました。透析については、医療者の中にもさまざまな考え方があります。今回はその1つとして、紹介させていただきます。
1 残存腎機能の重要性(PDファースト)
腎臓の機能は尿毒素の排出だけでなく、貧血を是正する、骨を正常に保つなど、生命維持のうえでさまざまな役割を担っています。このかけがえのない腎機能を守るために、保存期腎不全外来では薬物療法や食事療法など、患者さんと医療従事者がタッグを組んで治療していますが、今まで透析開始後の腎機能にはあまり注意が払われてきませんでした。しかし腎機能が低下したとはいえ、まださまざまな働きをしているのです。透析導入となっても、残った腎機能を維持されている方のほうが長生きしているというデータもあり、最近透析患者さんの残存腎機能が注目されるようになってきました。
透析療法には腹膜透析(PD)と血液透析(HD)とがありますが、PDはHDに比べて残存腎機能を保持できることが明らかなことから、最近注目を集めています。そこで残存腎機能が保持されている透析導入期に、まずPDを導入する「PDファースト」という考え方が広まりつつあります。
2 なぜPDは普及してこなかったのか
しかし現在、わが国では96%前後の方が血液透析で治療されています。どうしてPDはこれまで普及してこなかったのでしょうか。その理由の1つに、腎不全治療に携わる医師が、PD治療のトレーニングを受けられない現状があります。PD治療をよく知らない医師は患者さんにPDを勧められず、患者さんは直接HDを導入してしまいます。その結果PD患者さんの数は増えず、ますます医師はトレーニング不足になるという悪循環に陥っていったのです。そして医師の中には、HDこそが腎不全治療の王道であるとか、PDは選ばれたやる気のある患者さんしか導入してはならないなどの偏見が今でもあります。
かくいう私もそうした偏見を持っていました。しかし、 PDで元気に暮らしている患者さんを見るにつけ、大きく考えを変えることになったのです。当院でも積極的にPDファーストに取り組み始め、今では導入期にPDを選ぶ患者さんは50%ほどに上昇しました。
PDはけっして選ばれた患者さんしか取り組めない特別な治療ではありません。自分で行う治療だから高齢者には向かないという声もよく耳にしますが、実際には高齢者の方ほどPDに向いていることが、私どものデータで明らかになっています。
3 PDの新しい考え方
PDのもつ最大の利点はなんといっても残存腎機能が保てることですが、その理由の1つは、PDは自分の腎臓と同じように24時間継続して透析を行うことに意味があります。HDのような間欠的治療ではどんなに透析時間を長めに設定しても、透析を受けていない時間が存在します。その間血液中の尿毒素も体液量も増加し、体に負担がかかってきます。しかし、PDにも限界があります。現在の技術では残存腎機能がなくなった患者さんは、PDだけでは透析不足に陥りがちです。自覚症状はあまりなくとも、肌の色が黒ずんでくる、尿毒症臭が強くなる、貧血のコントロールが困難になるなど、自覚しないところで体調は悪くなっているのです。それでもPDに固執する患者さんがおられるのは、とても残念なことです。
PD、HDそれぞれに長所、短所があり、患者さんの残存腎機能や病期にあわせてタイムリーに両者を使い分けていくことが、元気に透析生活を送る最大のコツだと私は考えています。ぜひ1つの治療に固執することなく、あれもこれも利用してほしいと思います。
ただしHDを最初に行うと、どうしても残存腎機能は早くなくなります。尿が出なくなってからPDに変更しても、残存腎機能を保つというPDのよさを放棄しており、また透析不足に陥りやすい点からもお勧めできません。
つまり透析の最初に選ぶべきはPDかHDかではなく、「最初にPD」(PDファースト)という治療をかませて残存腎機能を大事にしていくか、ストレートにHDにいってしまうか、という選択なのです。
PDとHDは対立する概念ではなく、たんに治療の時期が違うだけであり、最後はみなさんHDをやるわけですから、PDとHDを比較して思い悩むことはじつは意味のないことです。
残存腎機能を長く保つことが、QOL(生活の質)の高い透析生活をより長く維持できるというデータが出ていることを、みなさんに知っていただきたいと思います。