腎臓教室 Vol.44

のう胞腎について

今回はのう胞腎について、乳原善文先生に解説していただきました。

乳原善文(うばら・よしふみ)先生
虎の門病院腎センター内科部長
1985年大阪市立大学医学部卒業後、虎の門病院で臨床を続ける。2008年11月部長就任。多発性嚢胞腎、IgA腎症、慢性腎炎や腎不全の治療だけでなく、関節リウマチや全身性エリテマトーデス等の膠原病疾患の治療の権威で治療実績を誇っている。

1. のう胞腎とは

 のう胞腎は常染色体優性遺伝の遺伝形式をとることから、親がこの疾患である場合に子供はほぼ50%の確率で本症を受け継ぎます。のう胞は肝臓にもみられ肝臓肥大になる可能性が大きいだけでなく、くも膜下出血もおこしやすいことが問題になります。のう胞は生まれた時からすでにみられ、何十年という時間経過の中でゆっくり大きくなり、平均すると60歳前後で透析に入る人が多いようです。のう胞があるからといって症状があるわけではなく、のう胞の中に細菌の感染や出血がみられた場合のみ、痛みや発熱がみられます。

2. 新しい治療法について

 腎臓や肝臓が大きくなった場合に、これまでは大きな腎臓や肝臓に対して手術が行われてきましたが、最近ではカテーテルを使った治療が行われるようになり、現在までに当院で、腎臓は540名、肝臓は240名がこの治療を受けました。
 腎臓や肝臓が大きくなる前に行う内科的な治療についての特効薬は、現時点ではありません。しかし腎臓の機能が悪化し腎臓のサイズまでが大きくなるような人をよく観察してみると、どうも高血圧のある人に多いことがわかりました。
 そこで高血圧をいち早くみつけ早く治療をしてゆくことが、現時点では最も大切な治療になります。以前なら140/85 mmHg以上が治療の指標と考えられましたが、最近では130/80 mmHg以下にまで血圧を下げた血圧管理が必要と考えられるようになりました。
 そのために使う降圧剤としてはアンギオテンシン受容体拮抗剤が最もよく、それで効かない場合にはカルシウム拮抗剤をはじめ他の種類のものを併用することにしています。
 治験薬についてはバゾプレシン受容体を抑える薬が現在治験進行中ですが、この結果についての評価はもう少し時間がかかります。他にも治験薬はありますが、外国でのみ行われており日本で受けることはできません。

3. 食事療法についての注意

 腎不全の進行を少しでも遅らせるためには高血圧の予防ということで、1日5~7g以下に塩分を制限することは正しいのですが、蛋白制限についてはまだ制限したほうがよいという成績は出されていません。のう胞腎の患者さんを大勢診察していますと、知的能力の高い人が多いように思えると以前のべたことがありましたが、逆に理性が災いすることもあることに気づきました。というのは蛋白制限を厳密にしようとするあまり、やせて栄養不良に陥り、逆に本症患者の最も恐ろしい病態であるのう胞感染をおこしやすくなるので、注意が必要になります。

4. 万が一透析になってしまった場合の治療について

 透析方法としては血液透析と腹膜透析があり、血液透析を選択する人が多いのですが、腹膜透析も大切な治療法です。

5. 腹膜透析の可能性は

 のう胞腎の患者すべての腎臓が大きくなるのではなく、腹筋が維持されている人は腹膜透析も可能であるどころか、本症患者の能力をもってすれば腹膜透析のほうがQOL(生活の質)もあがり、よい選択肢かもしれません。ただし稀におきる腹膜硬化症という恐ろしい合併症がありますので、5年程度を目安に別の治療法、血液透析や腎移植への切り替えを検討したほうがよいかもしれません。

6. 腎移植について

 通常腎移植に先立って移植腎を植え付けるための場所を確保するために、のう胞腎の患者さんでは主に右の腎臓を手術で取り出すことが行われてきました。しかし移植日に合わせて前もって腎動脈塞栓術を行っておけば、その必要がなくなりそうです。移植には献腎と生体腎移植があります。日本では献腎は少ないので生体腎移植を選択するとなると、腎臓を提供するドナーが必要になります。
  本症の患者が大変な合併症を持ち、配偶者はさぞつらい思いをされているのではと考えていましたが、多くのご夫婦に接するとその考えは杞憂に終わり、むしろ患者さんご夫婦にはよけいなおせっかいだと気づきました。すなわち本症患者のもう一つの特徴は夫婦仲のよいカップルが多く、この疾患がみつかったことでさらに夫婦の絆が強くなったと思えるカップルを目にします。自分からパートナーに片腎を提供したいと移植を申し出られるケースが多く、移植後の経過も良好で、夫婦の相性は拒絶反応までも吹き飛ばす勢いであることを感じさせられます。ただし、この機序についてはまだ自然科学的には証明されておりませんが……。

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