腎臓教室 Vol.38

心のケア

去る2 月24 日(日)、「第20 回 腎臓病を考える都民の集い」が東京都千代田区で開催されました。今回はその中から、春木繁一先生の「心のケア」についてのお話をご紹介します。

●20回めを迎えた「都民の集い」

「腎臓病を考える都民の集い」は、NPO法人 東京腎臓病協議会が、腎臓病の啓発活動の一環として毎年開催している催しで、当会も後援し、理事長 松村満美子が20年前から毎年司会者としてサポートしています。 今年の「都民の集い」では、まず、日本医科大学付属病院第2内科 教授 飯野靖彦先生より「CKD(慢性腎臓病)の予防と管理について」と題して、腎臓の働きやCKDの予 防と治療などについてわかりやすい解説。次いで、松江青葉クリニック 精神科医師 春木繁一先生より「腎不全保存期、透析患者の心のケアを考える」と題したご講演。 最後に会場の方々からの質問に答えるパネルディスカッションが行われました。

透析治療は多くの不安を伴う

●否定的な感情がわくのも当然

春木先生は、「そらまめ通信」13号の対談にもご登場いただきましたが、自らも血液透析を受けながら、精神科医として活躍していらっしゃいます。透析治療は、「慢性で完治しない」「透析を受け入れれば生きられる。しかし透析を継続するには、生活や生き方までも変更を余儀なくされる」。このため、透析に対して否定的な感情がわいてくるのも当然だということ。また、治療には病気の予後、合併症、薬の副作用、経済的・家庭的事情、仕事、人間関係など、多くの不安が伴うことも話されました。そして、それ等を乗り越えられる時間には個人差があり、透析開始後数ヶ月で前向きになれる人もあれば、年単位の時間がかかる人もあるということでした。

●透析患者にみられる3つの抑うつ症状(状態)

透析患者にみられる抑うつ症状(状態)には、大きく3つの種類があるそうです。
  1. 身体的うつ状態
    うつ状態の中には、尿毒症や薬の副作用が原因となっているものもあります。うつ病と思っていたのが、じつは、腎臓病の悪化で身体に毒素が溜まっていることが原因の軽い意識障害で、透析で毒素を取り除くことでスッキリする場合もあるようです。つまり、この場合は、抗うつ薬ではなく、透析をすること自体がうつ症状を緩和することになります。また、脳の中枢神経を経由して効果を発揮するタイプの薬の副作用で、うつ症状が出ることもあるとのことでした。
  2. 反応性うつ状態
    透析を始めて時間が経ち、身体が慣れたころに透析の辛さに気づいて起こる状態で、回復には時間を要する場合が多いとのこと。体調が良い日は問題ないけれど、合併症がおこったり、人間関係が上手くいかない時にうつの症状が見られるといった、波もあるということでした。
  3. 内因性うつ病の初発ないし再発

心の問題をケアするためには

●早期発見・早期治療が大切

腎臓病は早期発見・早期治療が大切といわれますが、心の問題も早期発見・早期治療が大切とのことでした。透析患者になって「うつ病」になる人や、透析導入前にかつて「うつ病を経験したことがある人」では、「うつ病」の再発もあり得ます。早期発見の一つの目安としては、不眠が3日以上続いたら要注意。専門の先生に相談したほうがよいようです。あとは、強い抑うつ気分、食欲不振、表情が乏しい・険しい、大きなため息、意欲減退、強い透析拒否も注意したほうがよい兆候とのことでした。

●見守ることを心がけ、責めないように

また、家族やまわりの人たちは、できるだけ聞き役に回る。回復に時間がかかることもありますが、とにかく見守ることを心がけてあげてください。反面、家族も透析患者と一緒に大変な経験をしています。そこで、まわりの人は家族を責めない、家族の労をねぎらう、欠点よりも良い点を見つけるなど、家族に対するちょっとした気遣いを心がけるようにしようとのことでした。心の問題は治療を続ける上でとても重要な問題です。今回、先生のお話を限られた誌面ですべて紹介することはできませんが、春木先生が執筆された透析患者と心に関する本も数多く出版されていますので、ご興味ある方はインターネットで探してみてはいかがでしょうか。春木繁一で検索すればたくさん出てきます。

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