腎臓教室 Vol.29
保存期腎不全の栄養指導
保存期における食事療法の大切さは、みなさんよくご存知のはず。 今回は、保存期の栄養指導について、栄養士の役割や患者が心がけることなどを、北里大学名誉教授の酒井 糾先生に解説していただきました。
酒井 糾(さかい・ただす)先生
北里大学名誉教授
当事者である患者さんと指導する側(栄養士)、両者の取り組みが合致して始めて目的が達成されます。どう工夫して社会復帰に耐えられるような食生活を可能とするかが重要です。長期にわたって続けるには、たんに栄養学・食品学的データ改善だけでなく、長期にわたっての病態の変化を見ることが大切です。
継続して栄養指導を受けることが大切
栄養士が栄養指導をする際、まず患者さんの年齢、性別、職業などの個人情報、現病歴、家族歴や病態の推移、コントロール状態、併発疾患などを知ることから始めます。さらに社会的属性、住環境、職環境、食嗜好、性格、心理状態などを把握します。通常患者さんは医師から慢性腎不全の食事指示票を渡され、“食生活に気をつけなさい”と言われたとき、明日から一体何を食べたら良いのかとまどい、不安な気持ちでいっぱいです。栄養士はまず先に述べたような情報を得た上で食事指導をすることになります。食事摂取状況を調査した上で、パンフレット、フードモデル、1日の献立例等を繰り返し懇切丁寧に指導してくれます。しかし、1~2回の指導で理解できる患者さんは殆どいないですから、面接を繰り返し受けることが大切です。外来での保存的治療期間の食生活管理の良い方ほど、透析治療に移行した際も、自己管理が安定する傾向にあります。
ガイドラインに示されている基準では、クレアチニン・クリアランスが70ml/分以下の慢性腎不全患者さんでの蛋白量は、1日、体重1kg当たり0.6~0.7g未満ならば目標達成としており、6ヵ月ごとに病態を見て再度設定するとされています。また、エネルギー摂取量については、患者さんごとに、1日、体重1kg当たり27~36kcalの範囲で摂取量を定めるとされています。ガイドラインはあくまでその摂取目標値です。食塩、K塩(カリウム塩)、水分の摂取量は患者さんの身体所見や検査値によりますので、次の項で述べます。
食事療法と検査値
各々の患者さんについて、指導内容を決める上での具体的なパラメーター(指標)は、体重、血圧、浮腫(むくみ)の有無、血液尿素窒素値、血清クレアチニン値、カリウム値、リン値等が挙げられます。食塩については、浮腫が出たり、体重が増えたり、高血圧が合併した場合には制限が強化されます。外来通院の患者さんでは、1日塩分摂取量として5~8gの間でコントロールできれば良いほうだと思います。制限強化の場合は、入院もしくは食事管理者の協力下での在宅療養が必要となってきます。K塩は、乏尿となり高カリウム血症の兆候が現われれば制限されることになりますが、通常、保存療法期では知識としてカリウム制限が必要とされる場合の兆候を知っていれば良いと思います。そして水分量については、浮腫(むくみ)が出たり、体重が増加した場合は、食塩とともに制限していただく場合もありますが、ほとんどは食塩の制限のみで済ますことが多いと思います。リンについては、基本的には血清カルシウム値とのバランスで考えますので、カルシウム値が低下しなければ、まず保存期ではリンだけをコントロールすることはさほど多くありません。もっとも、リンが上昇傾向にある方は食事内容をチェックして指導されます。
栄養士さんはこれらのことを考えて栄養指導するわけですが、最近ではコンピューターを活用することが多くなっています。患者さん自身が食品マスター、標準献立マスターをコンピューターから入手することも可能です。栄養指導の内容、個人情報を開示するのは無理としても、栄養指導される側、する側が個々に自分で利用するのは問題ありませんので、コンピューター利用は必要と思います。
社会全体の流れは生活の基本をQOL(生きがい)におくというようになっており、患者さんは栄養指導されたら、それを遵守しなければなりません。そうすれば高いQOLが達成できるはずです。医療側、とくに栄養士さんにはプロフェッショナルとしての役割が要求されています。最近では、医療は“科学的根拠に基づいたデータで指導あるいは治療がなされるべき”とする考え方が強調されるようになりました。栄養士さんも日進月歩の情報をいち早く入手して、ご自分の職業技術として役立てています。どうか皆さん方も、栄養士さんたちの指導に従って、毎日の食生活を管理しつづけて、高いQOLを維持していただきたいと思います。