腎臓教室 Vol.24

第11回 日本腹膜透析研究会

2005年10月29、30の両日、第11回日本腹膜透析研究会が岡山コンベンションセンターで開かれました。今年は「生き方を選択する時代の腹膜透析療法」(サブテーマは「ハーモニーオブライフのために」)と題して岡山済生会総合病院腎臓病センターの平松信先生が中心となって準備を進められ、1400人以上の参加者がありました。

実質3日間にわたり熱心に勉強した参加者

大会自体は2日間でしたが、前日にインターナショナルセッションとして、海外からの腹膜透析関係のドクターを招聘して、英語で発表やディスカッションが行われるというセッションもあり、実質3日間にわたって、医師、看護師、臨床技師らが熱心に最新の進歩を勉強するとともに、お互いに情報交換する機会となりました。当協会の松村理事長も、開会初日のシンポジストとして、腎臓サポート協会の活動の様子などを報告しました。

大会を主催された平松先生の言によると、小児から高齢者まで、その人らしい人生を過ごすことをイメージして「ハーモニーオブライフ」というサブタイトルをつけられたということでした。

広いコンベンションセンターで、第1会場から第6会場、そしてポスターセッションと、多彩な発表がなされました。もちろん、腹膜透析(PD)についての演題が圧倒的に多かったのですが、保存期や血液透析についても、幅広くいろいろな発表がありました。とくに初日のシンポジウムは、「高齢社会におけるPD療法の役割」と題し、在宅で連続携行式腹膜透析(CAPD)を行っている高齢者の現状と今後の課題、そして医療費にかかわる問題についてのセッションで、大勢の聴衆が集まりました。以下にその一部をご紹介します。

CAPDの導入実績 ~世界と日本~

日本医療経営学会理事長の広瀬輝夫先生は、日本ではCAPDが血液透析の4%しか行われていないが、香港では80%、メキシコでは70%と、CAPDの比率は経済面及び技術面から特に発展途上国で高いこと、欧米でも10%から20%CAPDが選択されているとのことでした。また、CAPDは在宅でできることから小児と高齢者に適しており、介護保険を改革することで、訪問看護師の派遣による指導がうまくいけば、もっとCAPDが普及するものと思われると話されました。

次に、当協会の松村理事長が、腎臓サポート協会の会員のアンケートでは、透析が血液透析だけではないという情報を得ている患者では保存期から新規透析導入をした人のCAPDの選択率が28%に上ったことを示し、情報があれば欧米並みの水準になることを報告しました。

また、日本医師会総合政策研究機構の前田由美子さんが、慢性腎不全患者に高齢者が増えていて、全透析患者の53%が(2002年現在)65歳以上であり、今後透析患者にとっては、医療費の自己負担が増える方向性が出ているなど、厳しい現実が目前にあることを話されました。

高齢者の在宅CAPD援助 ~現場からの報告~

天神クリニックの菅朗先生は臨床の現場から報告されました。済生会八幡総合病院腎センターが、通院困難な血液透析者を腹膜透析に移行させ、在宅復帰をさせる「北九州方式」という試みを行っており、そのプランに参画することで、寝たきりの患者でも自宅に帰し、訪問看護と家族介護で対応している実際のケースを紹介されました。寝たきりの患者の場合、1日4回でなく、1~2回のバックの交換で対応することも可能ということで、24時間365日の救急体制を持つセンター病院が緊急時に対応してくれれば、在宅でCAPDを行え、自宅で最期を迎えることが可能ということでした。

看護師の立場から、岡山済生会総合病院訪問看護ステーションの道仙道子さんは、平成8年から自宅でCAPDをしている患者の訪問看護を9年間行ってきて、その間に感じた問題点、そして車でかなりな距離を走り回り、訪問看護している実例を話してくださいました。また、CAPDをしているとショートステイが出来ず、介護者が休めないなど、地域社会での公的援助の遅れも指摘されました。

このシンポジウムを通して、CAPDがQOL(生活の質)を維持するうえでも高齢者には適した治療法であり、余生を比較的安楽に自宅で送れる治療法であることも立証されました。と同時に先進国の中で、対GDPに占める総医療費が極端に低いにもかかわらず、今以上に医療費を抑制し自己負担を増やそうという方向が示されています。さらなる高齢社会に向けて、病める者や弱い者に優しい国を目指す日本であってほしいと願わずにはいられませんでした。

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