腎臓教室 Vol.20

日本ではなぜ在宅透析治療が普及しないのでしょうか

わが国では、家庭血液透析は、110人しか居ませんし、CAPD、APD合わせても、1万人弱しかいません。24万人も、透析患者がいるのに……です。そこで、透析者のQOLを高めるためにも、もっと在宅の透析を普及させるべきとの観点から、去る2月27日、大阪国際会議場で第2回日本在宅透析支援会議(前川正信会長)が開かれました。当会からは、顧問の大平先生と松村代表が、「在宅透析のためのインフォームド・コンセント」のシンポジウムで基調講演を行いました。

我が国の血液透析は、機器も技術も世界に冠たるものであることは誰もが認めるところです。しかし施設で行われている血液透析がどんなに素晴らしくとも、自分で通えれば問題はないのですが、施設に通うためには誰か家族の付き添いが必要だったり、通うこと自体大変な人も多いのです。

また元気で、仕事も健常者並みにこなしたいという人にとっては、夜間透析でも、会社勤めの人は、退社時間前に会社を出なければならなかったり、忙しい時には早退するのは気が引けるなど、なかなか自分の都合に合わせた透析は望めません。

我が国で極端に、在宅透析治療が少ない原因は何なのでしょうか

診療報酬も、見過ごすことができない我が国の大きな問題点のひとつです。CAPDを始めるにあたって、教育のために、患者が入院して医者が指導する場合でも、その指導料が保険点数で認められなかったり、入院中に使用した、交換部品などが保険で認められないなど、CAPDが在宅医療であるために、逆に入院中に発生する経費に対しての手当てが充分カバーされないなどの問題があります。

また、自宅で暮らすことができなくなって、老人保健施設などに入っても、家族でない人間は、バッグ交換などの介助をすることができないため、自宅でやっていたCAPDやAPDをやめて、施設へ送り迎えをしてもらって、血液透析に移行しなければならないケースも多く見られます。

また家庭血液透析の場合、何か問題が起こったときのバックアップシステムをこれから構築しなければならないなど、解決しなければならない問題がたくさんあります。厚生労働省も、大きな医療制度改革の枠の中で、在宅透析の必要性や問題点などもよく理解されているようなので、今後に期待したいと思います。将来、在宅透析が増えれば、医療費の削減にも寄与し、患者のQOLも高まることを考えると、在宅透析は、これからかなり増えていくと考えられます。

透析治療開始時における医師の説明責任

保存期の患者が、いよいよ透析を始めなければならないというときに、主治医の果たす役割は大変大きいものがあります。透析の治療法が、施設での血液透析だけでなく、自宅で出来る家庭血液透析、CAPDやAPD、腎移植も選択肢の中にあることを、主治医は患者に告げなければなりません。これをインフォームド・コンセントといい、厚生労働省もその必要性を明確に指示しています。ところが、透析施設を持つ病院の医師は、「そろそろですね」というときに、血液透析しか頭に置いておらず、患者に他の治療法を話さない傾向が今までかなりあったようです。CAPDから入ったほうが尿量も保てるし、よいと思っている医師の中には、「そろそろですね」というときに、血液透析のことを話さない医師も出てきていると聞きました。どちらも、患者のことを真剣に考えているとは思えません。

当協会が、昨年4月会員に行ったアンケート結果でも、会員になる前には、家庭血液透析や、CAPDのことは知らなかったという人が大変多く、「そらまめ通信」を通じて、いろいろな治療法があることを知り、その結果、わが国では、透析導入患者の96%が、血液透析を始めるのに対して、当協会に入会してから、透析を導入した方々では、28%が、CAPDを選択しておられました。このことからも、透析の治療法に選択肢があることを知っているのと知らないのとでは、治療法選択に大きな違いがあることがわかります。

医師は患者にわかる言葉で、きちんとインフォームド・コンセントをすることがいかに大切か。また患者の側も、自分の病気は自分のものとして、自分の生活パターンにどの治療法が一番適しているか、自分の性格にはどの治療法が一番あっているか、医師任せにせず、自分でも勉強して、主治医とともに、最適な治療法を選ぶ努力をするべきではないでしょうか。

今回の会議を通して、医療従事者、メーカー、患者団体、保存期の患者など、多くの出席者が、熱心に耳を傾け討議に参加している姿が大変印象的でした。

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