腎臓教室 Vol.15
「小児腎臓病について」
腎不全など腎臓の病気と向きあっているのは、大人ばかりではありません。子どももいます。小児期にみられる腎臓病は、小児特有の体への影響があったり、学校生活との両立も問題になります。今回は、腎不全治療にスポットをあてて小児腎臓病についてみてみましょう。監修:八王子小児病院 副院長 本田雅敬先生
小児腎臓病と学校生活
主な原因
現在では、小児の腎臓病は大人に比べると「生まれつき」のものが目立ちます。遺伝性が疑われる主な病気は、多発性のう胞腎、アルポート症候群、先天性ネフローゼなどがあげられますが、先天性の腎疾患であっても実際に遺伝が原因のものはあまりありません。「遺伝なのでは」と必要以上にご両親が悩む必要はないのです。症状
主な症状としては、先天性のものでは貧血や食欲低下・成長障害などの症状が現われ、腎炎やネフローゼでは体重の増加やむくみなど、大人のように透析治療が必要になる症状が現われます。治療小児の場合、血液透析では食事の制限が厳しくなり、栄養状態が悪くなったり、毎日病院で透析が必要になったりするため、家庭内で毎日行なえる、かつ食事の制限がほとんどない腹膜透析が行なわれます。
また、小児の腎不全では生体腎移植が多く行なわれますが、大人の大きな腎臓を植えることになるので、移植を受けるためにも成長することはとても大切。食事制限の少ない腹膜透析をしながら栄養と体力をつけ、移植に向けた「からだづくり」をしていきます。
小児腎臓病と生活
日常生活
大人と同じく、腎移植を受けたあとは、拒否反応を抑えるために、免疫抑制剤を飲み続ける必要があります。現在は良い免疫抑制剤が多く開発されていることもあり、様子を観察しながら薬剤の量をだんだん減らしていく治療法が注目されています。腹膜透析を実施している場合は、腹部を圧迫する鉄棒などの運動はしないように考慮する必要があります。学校生活しかし、子ども本人は自分の病気のことをあまり理解できないものです。「なんでも禁止」にするのではなく、周囲の大人が病気を理解し、「できること(してもいいこと)はできる」環境作りが大切です。
そのために「学校生活管理指導表」という生活・運動の目安を詳しく書いた表が使われます。平成11年に従来のものが年齢別に、より詳しく、明確に改良されました。まず主治医に細目を記載してもらい、家族を通じて担任の先生と相互に連絡をとりあいます。この「学校生活管理指導表」は子どもと学校をつなぐ掛け橋です。上手に利用して健全なる子どもの成長を願いたいものです。
学校検尿
日本では昭和49年(1974年)から学校での尿検査が義務付けられました。この検尿で「尿異常」を指摘される子どもは小学生で1000人中約6人、中学生で1000人中約13人と言われています。この検査によって早い時期に腎臓の異常を発見できるようになりました。検査では血尿や尿たんぱくの有無などが指摘されますが、「要検査」の指示を受けるとびっくりしますね。しかし実際に慢性腎炎になるのは、尿異常が指摘された子どものうち10人に1人以下の割合と推定されています。尿異常が発見されても問題のない場合も多くあるのです。精密検査で将来慢性腎不全になる可能性が大きいことを指摘されても、子どものうちに早期発見することによって、大人になるまで、腎不全になるのを遅らせられるようになりました。わが国で学校検尿がスタートしてから、慢性腎炎による小児腎不全の透析患者は少なくなりました。