腎臓教室 Vol.108

上手につきあい解消したい
慢性腎臓病(CKD)のストレス!!

治療を受けながら生活する患者さんにはさまざまな悩みや葛藤が生まれますが、それらのストレスへの対処法についての研究も進んでいます。どうすればよいのか、腎臓内科で実際に多くの患者さんと接してきた臨床心理士の藤本志乃先生に教えていただきました。

“食べる”を楽しむためのカウンセリングルーム Le:self
藤本 志乃 先生(臨床心理士・公認心理師)

慢性腎臓病(CKD)ではどうして精神的なストレスが増えるの?

ストレスという言葉は誰しも聞いたことがあると思います。ストレスがある・ストレスが溜まると私たちは日常でよく使うようになりました。このストレスはどのようなことが原因となっているかについてご存知でしょうか?
 1つは、人生のイベントがあるときだといわれています。人生のイベントというのは、結婚・離婚、怪我・病気、転職・退職というような環境の変化が伴うときを指しています。2つ目は「日常苛立ち事」といって、日常の中で苛立ったり、不安になったりする出来事があるときです。人間関係、仕事・勉強・生活の負担や電車での混雑など、たとえ些細な事であってもストレスの原因となるといわれています。
 つまり、CKDでは、疾患自体もストレスの原因となりますし、そこに疾患のケアのための食事・服薬などの自己管理の負担なども重なり、大きなストレスになる可能性があるといえるのです。

慢性腎臓病(CKD)に伴うこころの変化と段階

 大きなストレスが一度にかかると、落ち込みがとても強くなることがあります。しかし、うまく対処しているうちに、ストレスとうまくつきあうことができるようになることもあります。このように、人間のこころは日々大きく変化していくのですが、一体どのように変化しているのでしょうか。このこころの変化を表したのが下の図です。私たちのこころは、このように、「落ち込む」、「避ける」、「闘う」、「折り合う」、「受け入れる」といった5つの段階をいったりきたりしているのです。

表1

それぞれのこころの状態に対処するにはどうしたよいか?

 上の5つの段階のうち、「落ち込む」、「避ける」、「闘う」という段階にこころがあるときに、ストレスが大きくのしかかっているような状態といえると思います。今日はこの段階にこころがある場合にどのようにすると良いかについて、お伝えしたいと思います。

(1)「落ち込む」の段階にこころがあるとき

 「透析をやった方がいいです」と突然言われたときなど、突然自分の環境が脅かされそうな状態におかれて、しばらくすると「落ち込み」の段階にこころがシフトすることが多くあります。落ち込みの気持ちが強いときには、無理をせず、少し休む方が良いように思われがちです。しかし、実は、できることを1つでもいいのでやってみる方が良いということが最近の研究でわかってきました。
 嫌な気持ちのときは「動きたくない」と布団の中にいたくなることが多いと思います。そしてご家族も、「無理をさせない方が良いだろう」とそっとしておこうとする方が多いかもしれません。しかし、そうではなく、「窓だけ開けてみる」、「朝ごはんだ顔を出す」といったように、できることを1つでもやってみることをおすすめします。ポイントは「無理なくやれそうなことを1つやり、そのときの気分の変化に注目すること」です。そうすることで、ふと気分が変化し、やれることが増えていくことで「落ち込み」の段階から抜けられることもあるのです。 表1
 嫌な気持ちのときは「動きたくない」と布団の中にいたくなることが多いと思います。そしてご家族も、「無理をさせない方が良いだろう」とそっとしておこうとする方が多いかもしれません。しかし、そうではなく、「窓だけ開けてみる」、「朝ごはんだ顔を出す」といったように、できることを1つでもやってみることをおすすめします。ポイントは「無理なくやれそうなことを1つやり、そのときの気分の変化に注目すること」です。そうすることで、ふと気分が変化し、やれることが増えていくことで「落ち込み」の段階から抜けられることもあるのです。

表1

(2)「避ける」・「闘う」の段階にこころがあるとき

 「病気のことを考えると辛くなるから、わざと忙しくしています」といった声はよく聞きます。「避ける」の段階にこころがあるときはこのように「考えないようにする」ために一生懸命になってしまいます。また、それとは反対に「塩分のg数を毎日きっちり測っています。友達と外食に行くと塩分が多くなるから、友達と会うことはやめました。」というように、病気のことだけを必死に考えているような状態を「闘う」段階にいると考えます。このように、「避ける」・「闘う」状態にこころがある場合、共通していえるのは、「自分の中に今ある不安を必死に避けようとしている」ということです。しかし、人間は不思議と不快な感情や考えを避けようとすることでさらにそれらに出会ってしまうという状態に陥ります。つまり、頭の中で自分の考えや感情が出てきたら消そうと頑張るけど、また出てくる、というもぐらたたきのようなことを一生懸命おこなっている状態になります。このように、不安自体が存在していることより、それを避けようと闘うこと自体が苦しさを生んでいるのです。
「避ける」・「闘う」の段階から抜け出すには、その闘いを一度やめてみることが重要です。そして1つだけ考えてみてほしいことがあります。今後どのように生きていくのかということです。疾患もあり、制限もたくさんあるかもしれない、でも何をしたいか、ということです。昔、自分はどんなことをするのが好きだったか、やりがいを感じていたかなどを思い出してみることから始めると良いでしょう。そして、自分の「生きがい」が見つかった方は、それを実現するために、今の自分はどのようなことができるのかを考えて実践することが重要です。そうしているうちに、気づけば頭の中でのもぐらたたきが終わり、うまく不安とつきあえるようになります。

まとめ

ストレスがかかり、「落ち込む」、「避ける」、「闘う」といった状態に心がシフトするのは自然なことです。このようになったときにどのように対処すると良いのか、自分なりの方法を持っておくことが一番大切なことかもしれませんね。

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