腎臓教室 Vol.106

慢性腎臓病(CKD)の患者は、
いつ専門医を受診するのがよいか?

自分の腎臓病(CKD)は専門医に診てもらったほうがいいのか心配という人が増えています。健康診断でひっかかったけど、治療せずに数年が過ぎ、ある日突然「透析」と…そんなことがないように、専門医に診ていただくタイミングを、当協会理事の篠田俊雄先生に教えて頂きました。

つくば国際大学医療保健学部医療技術学科教授 篠田 俊雄 先生

1. 慢性腎臓病(CKD)とは?

 慢性腎臓病(CKD)は米国腎臓財団により提唱された病気の概念で、その目的は透析や移植医療が必要になる末期腎不全の患者を減らすことです。腎臓にはさまざまな病気がありますが、腎臓専門医でない医師(家庭医やほかの領域の専門医)では、腎臓病の特徴や治療法を熟知していない医師が少なくありません。腎臓病はかなり進行しないと症状を自覚できないため、患者は深刻な病気と考えずに放置したり、医療機関への受診が遅くなったりしがちで、受診時にはCKDがかなり進行していることも多いです。そこで、腎臓病についての知識を国民や腎臓専門医以外の医師にひろく知ってもらうため、さまざまある腎臓病をあえてCKDというひとつの概念にまとめたわけです。

2. CKDについての知識とは?

皆さんに知っていただきたいCKDの知識とは、主に以下の4つです。
  1. 末期腎不全や心血管病合併など重篤な状態に陥るリスクが高い病気である。
  2. 患者数が多い(わが国の推計では1,400万名ほど)。
  3. 腎機能の悪化を進行する因子に、不適切な食事(過剰な塩分やタンパク質)や不十分な血圧管理など共通のものが多い。
  4. 早期からの適切な治療により重篤な状態への進行をかなり抑えられる。

 CKDでは心血管病を併発することが多く、心血管病による死亡のリスクが末期腎不全にいたるリ スクよりも高いことも判明しました。CKDの治療は心血管病の合併や進行を抑えることにもなります。腎臓専門医の立場でいえば、CKDにはさまざまな病気が含まれ、特徴や経過はそれぞれで異なりますが、治療には共通点が多いことも事実です。主なCKDは、透析療法にいたる患者数の多い順に、糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎、腎硬化症、多発性のう胞腎です。

3. 糖尿病や高血圧の場合

 これらの病気が発見される状況は大きく二分されます。糖尿病や高血圧はそれぞれ患者数が1,000万名以上で、家庭医や糖尿病専門医、循環器専門医により治療されている場合が多い病気です。糖尿病性腎症や腎硬化症は、それぞれ糖尿病や高血圧の治療が不十分な一部の患者に合併するため、治療の経過中に診断されます。もっとも、糖尿病や高血圧を健康診断で発見されながら放置していたために、病院受診時にはすでにCKDがかなり進行している患者も少なくありません。

表1

日本腎臓学会はCKDの病期分類第3期(G3)(推算糸球体濾過量eGFRが60mL/分/1.73m2未満で30mL/分/1.73m2以上、以後体表面積補正は省略)になったら、一度は腎臓専門医へ紹介することを勧めています。尿蛋白が多い場合は、より早期の紹介が望ましいです(表)。第3病期の治療は主治医(かかりつけ医)と腎臓専門医が協力して診療することが多くなります。CKDでは食事療法(塩分やたんぱく質の制限、適正なエネルギー量)が大切で、高血圧の管理にも特別な注意を要するため、腎臓専門医によるアドバイスが治療に活きます。CKD第4病期(G4)(eGFRが30mL/分未満、15mL/分以上)以降では、食事療法をより厳格にする必要があり、赤血球造血刺激製剤(ESA)の注射や適切な時期での透析療法の準備が必要になるため、腎臓専門医が主体の治療が望ましいと考えます。

表2

4. 慢性糸球体腎炎や多発性のう胞腎の場合

 他方、慢性糸球体腎炎や多発性のう胞腎は健康診断をきっかけに、腎臓専門医を紹介されることが多く、比較的早期(CKD第1~2病期(G1~G2))から腎臓専門医が診療に参加している場合が多くなります。CKD第3病期(G3)までは主治医と腎臓専門医の併診診療が可能です。血尿やタンパク尿が増加した場合や血圧が高めになった場合にCKDの進行が疑われますので、腎臓専門医のアドバイスが必要になります。

5. CKDの可能性を指摘されたら、一度は腎臓専門医に診てもらいましょう!

 健康診断や通院中にCKDの可能性を指摘された場合には、一度は腎臓専門医に紹介してもらってください。CKDは数年から数十年の年月で末期腎不全にいたるリスクがあり、心血管病の合併や進行のリスクもあります。主治医と腎臓専門医が協力して診療にあたれば、CKDや心血管病の進行をかなり抑えることが可能です。腎臓サポート協会によるアンケート調査では、早期からの腎臓専門医の診療参加により、また「そらまめ通信」のような医療情報誌による療養や食事療法のアドバイスにより、透析導入時期を遅らすことが示唆されています。

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