腎臓教室 Vol.100

適切な食事療法をするために
~たんぱく質制限にとらわれず、適正量を~

慢性腎臓病(CKD)というとたんぱく質制限と考えられてきましたが、むやみにたんぱく質を制限することで、エネルギー不足になったり、かえって病状が悪化することが近年、問題となっています。そこでどの程度のエネルギーが必要で、どれくらいのたんぱく質をとればよいのかを教えていただきました。少し難しく感じるかもしれませんが、自分にあった量を一度覚えればそんなに難しくありません。ぜひ実践してみてください。

筑波大学医学医療系腎臓内科学教授 山縣邦弘先生
茨城キリスト教大学准教授 石川祐一先生

1.まずは自分のステージをチェック

 一般には腎臓病=たんぱく質制限が知られており、手っ取り早くたんぱく質を減らす方法として食事量の制限、すなわちエネルギーもたんぱく質も、まずは減らしてしまう人が圧倒的に多いのが問題でした。
本当にそれでよいのでしょうか?表1の慢性腎臓病に対する食事療法基準¹)でみてみましょう。

 エネルギーについては患者さんの性別、年齢、活動レベル、さらには身体の状態や検査の数値などによって、標準体重*¹1kgあたり25~35kcal/日の範囲で適時変更すること、たんぱく質については標準的治療としてCKDステージG3aでは標準体重1kgあたり0.8~1.0g/日であり、ステージG3b以降の患者さんでは標準体重1kgあたり0.6~0.8g/日とされています。

注)エネルギーや栄養素は、適正な量を設定するために、合併する疾患(糖尿病、肥満など)のガイドラインなどを参照して病態に応じて調整する。性別、年齢、身体活動などにより異なる。
注)体重は基本的に標準体重(BMI=22)を用いる。

2.CKDステージG3aでは健常人とほぼ同じたんぱく質量でOK!

 健診などで腎機能障害を指摘されて受診される方のなかには、たんぱく質制限を意識するあまり、食事量全体を減らして、体重減少とともに気力減退、疲労感を自覚して来院される患者さんが後を絶ちません。実際には、たんぱく質摂取量の基準はどれくらいなのでしょうか。

 「日本人の食事摂取基準」は国民の健康の保持・増進をはかるうえで摂取することが望ましいエネルギーおよび栄養素の量の基準を示すものとされています。表2は日本人の食事摂取基準2015年版におけるたんぱく質推奨量ですが、成人(30~39才)をみると、男女とも参照体重*²1kgあたり約0.9g/日、成人男女(70才以上)では約1.0g/日となっています。このことはCKDステージG3aまでの患者さんにおけるたんぱく質摂取量、標準体重1kgあたり0.8~1.0g/日と大きな差はないことから「たんぱく質制限」といういい方ではなく「適正なたんぱく質摂取量をめざしましょう」とするのが正しい表現になります。

 表3は厚生労働省が国民の健康増進の総合的な推進を図るための基礎資料とするため毎年実施している 「国民健康・栄養調査」の結果ですが、たんぱく質摂取量をみてみると、20才以上の平均たんぱく質摂取量は男女とも平均体重1kgあたり1.1g/日、75才以上では1.2~1.3g/日であり、日本人の食事摂取基準(推奨量)と比べて摂取量が多くなっていることがわかります。CKDの患者さんに限らずたんぱく質量は適正量に近づけることが求められます。

3.高齢者も適正な運動と適正なたんぱく質摂取で腎機能改善と体調維持が可能

 近年高齢者が陥りやすい状態として、サルコペニア、フレイル、たんぱく質・エネルギー低栄養状態(Protein—energy wasting:以下PEW)といった言葉を聞いたことがありませんか?サルコペニアとは「筋肉量が低下し、筋力または身体能力が低下した状態」をいい、フレイルとは「加齢とともに運動機能や認知機能が低下してきた状態」をいいます。また、PEWはサルコペニア、フレイルとも関連し、加齢とともに筋肉量の低下→筋肉が落ちることで運動機能が低下→動かないから食事摂取量が減少し、たんぱく質やエネルギーが不足し「低栄養状態」になってしまう、CKD患者に限らず、高齢者に起こりうる負の連鎖です。以前は腎機能が悪くなるとなるべく安静といわれてきましたが、最近の調査では適切に運動することが、保存期腎不全の患者さんにとっても、腎機能の改善、体調の維持が可能となることが明らかとなり⁴)、食事のたんぱく質を制限するのではなく、適切に摂取することの重要性も明らかとなりました。普段からからだを適度に動かすことで筋力を維持し、その結果食事がおいしく、楽しく食べられるような生活を心がけたいものです。

4.自分に合った食事療法を、管理栄養士に評価してもらいましょう!

 CKD患者さんの食事療法は、「たんぱく質制限」を前提にするのではなく、その人の食生活状況にあわせた対応が必要となります。病院で栄養食事指導を受ける際には献立記録や、写真(携帯やスマートフォンでOK)で数日分の記録をとり、管理栄養士に内容を評価してもらってください。また主治医の指示によりますが、24時間の蓄尿検査を受ければ1日の塩分摂取量やたんぱく質摂取量を調べることも可能です。自分が普段食べている食事の量は自分にとって十分な量なのかどうか?たんぱく質の摂取が不十分な場合には、適正量に見直す必要があります。もともと食べている量が過剰でなければ、特にその食生活を変える必要はないかもしれません。もちろん肥満のある方は減量も重要ですが、肥満のない高齢者には、カロリー制限、たんぱく質制限は不要とも考えられます。

*1 標準体重:標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22
*2 参照体重:日本人として平均的な体位を持った人を想定し、健全な発育並びに健康の保持・増進、生活習慣病の予防を考える上での参照となる体重
 1)慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版.2014年7月:東京医学社
 2)日本人の食事摂取基準2015年版.2014年3月:厚生労働省
 3)平成28年国民健康栄養調査報告.2017年12月:厚生労働省
 4)腎臓リハビリテーションガイドライン 2018年6月:日本腎臓リハビリテーション学会

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