心に残る患者さん ~ドクターズエッセイ~Vol.104(2019年4月号)

ドクターが忘れがたい患者さんについて語るリレーエッセイ。
(先生の肩書は掲載当時のものです)

宮崎 正信 先生   

宮崎内科 院長

高齢化社会の中、在宅でできる腹膜透析の素晴らしさ!

 85歳、高血圧による慢性腎不全で透析となり腹膜透析が導入となった患者さんがおられました。奥さんとの二人暮らし、子供さん達は市外と県外で、各々の家庭が有り、親の面倒は見ることができない状況だったため、訪問看護師さんとヘルパーさんたちのサポートで、何とか1日1回の腹膜透析を実施していました。

 そのうち、ご本人は肺癌があることが判明、奥さんは、急速に認知症が進み、ある日は外出したものの帰る道がわからなくなり、警察のお世話になったりしていました。困ったことは、入院は絶対いや、透析回数は1回以上はしないということでした。食欲がなくなり、点滴が必要となるときもありましたが、血管が非常に細く、点滴がうまくできない時もありました。“何で点滴ができないのだ、へたくそ!”と看護師さんを罵倒、看護師さんが涙することさえありました。施設への入所も考えましたが、腹膜透析をしている夫、認知症が進んでいる妻の二人一緒に入所できる施設はなく、私や訪問看護師、ヘルパー、ケアマネは、どうしたものかと頭を抱え込んでしまいました。

 話合ってでた結論は、このお二人にとって、”我が家以上のものは無く、以下のものは無し“、二人一緒の生活以外は、空間的、時間的にも考えられない、それを実現できるのは在宅しかないという結論に達しました。二人に何があっても驚かないとご家族と関係者一同で覚悟を決めたのでした。この家で、何があっても二人一緒の生活ができるように訪問看護師さん、ヘルパーさん、訪問薬剤師、ケアマネが一緒になってチームを作りました。 患者さんはしっかりと1日1回の透析バック交換をしてもらう、奥さんはというと、何もしなくて良い、ただ、一緒にいることが、奥さんの仕事でした。あるときは、奥さんが風邪で食事が取れず点滴をして、その横のベッドではご主人が腹膜透析液の交換をするということもありました。その六畳一間の空間は決して清潔とはいえませんでしたが、訪問看護師さんたちのお蔭も有り、腹膜炎は一度も起こさずにすみました。

 ご主人は次第に弱っていき、奥さんが見守るなかで、安らかに息を引き取られました。忘れることができないのは、その頑固な患者さんが、奥さんが風邪からよくなってご飯を食べることができるようになった時に、奥さんに”元気になって本当によかったなあ“といったときの笑顔、そして、ご主人が背中が痒いというと、何気なく奥さんが背中を掻いてあげる風景です。これは住み慣れた在宅でないと実現できないことだとつくづく思いました。そして、関係者一同で、思い出を語りながら食事をしたのですが、”点滴が入らないなら帰れ“といわれた看護師さん、何回も説得しても決して首を振らずに途方にくれた当院の看護師、どうして透析を続けていければ良いのか悩んでいた私、みんながその患者さんの思い出を語りながら、涙が自然にでてきました。高齢化社会の中、在宅でできる腹膜透析の素晴らしさ、患者さんにあった方法を見つけていくことの尊さを教えて頂いた患者さんでした。

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