心に残る患者さん ~ドクターズエッセイ~Vol.98(2018年4月号)

ドクターが忘れがたい患者さんについて語るリレーエッセイ。
(先生の肩書は掲載当時のものです)

富野 康日己 先生   

医療法人社団松和会 常務理事、順天堂大学 名誉教授

患者さんには多くのことを教えていただきました

 医学部卒業後40年も経つと思い出に残る患者さんは沢山います。患者さんには、これまで多くのことを教えていただきました。大変感謝しています!透析患者さんと身近に接したのは、大学病院の外勤先でしたが、若さいっぱい緊張感をもって取り組んだ時代でした。

「ある日、突然!」
 80歳代の男性患者さんが突然病院に来なくなりました。2日間透析をしていませんし、前回体重が残し目でしたので心配です。ご自宅へ電話し、その後も電話と手紙で連絡を取りましたが、病院には来ませんでした。ついに、私と婦長さん、事務職員で自宅を訪問しました。「長い間、透析してきたよ。もう疲れた。俺はもう行かないよ。」の一点張りでした。こちらは、手を変え品を変えて説得しましたが、ダメでした。毎朝仕事に出かけていたご家族は、透析を受けているものと思っていたそうです。数週間後、やっとやって来たのですが、最後の説得の一言は「お孫さんの結婚式に出ようよ!」でした。尿が少し出ていたことが幸いしましたが、大変心配しました!患者さんから長期透析を続けることの厳しさ・つらさを学びました。

「ドクター穿刺!」
 70歳代の元気な女性患者さんでしたが、シャントの状態があまり良くなく何度も穿刺を繰り返していたので、かなり神経質でした。その病院では、穿刺が難しい患者さんは「ドクター穿刺!」といって医師に回すのです。私は何せ不器用なもので勤務の前夜は気が重くなりました。患者さんは、「先生、私のは浅いからね。深くいくと絶対入らないよ。そこ、そこだよ」と、大きな声で叫ぶのです。こちらは、額に汗をかきながら真剣に立ち向かいました。私の後ろには、その年入職したばかりの新人臨床工学技士が気の毒そうに見ていました。バスキュラーアクセス(シャント)の大切さを学びました。

「うっつ、胸が痛い!」
 90歳前後かと思っていましたが、実は70歳代の女性患者さん。いつも明るく秋田弁で語りかけてくれる優しい方で、よくお話しました。私の祖父も秋田出身でしたので、訛りに親近感があったのかもしれません。毎月の胸部X線検査で心肥大と大動脈の拡張・石灰化が見られました。ある日、透析中に「うっつ、胸が痛い!」と言ってショック状態となり、緊急処置のかいなくお亡くなりになりました。ご家族のご協力で剖検をお許しいただきました。最近は、CTやMRIといった画像診断が進歩したこともあり剖検件数は減っていますが、肉眼と顕微鏡での観察で大動脈瘤の破裂が確認されました。最近注目されているCKDMBD(慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常)について学ばせていただきました。

 わが国は、現在超高齢化社会となり高齢患者さんがますます増えています。私は高齢の透析患者さんから多くのことを学ばせていただきましたが、患者さんへの負担が少ない「心温まる透析ライフ」を目指していかなくてはならないと思っています。

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